各所で話題になっているので知っている人も多いかと思いますが、 Nine Inch Nails の Trent Reznor 全面プロデュースによる Saul Williams のダウンロード・アルバム。5ドル払う有料版と、それより音質が劣る無料版の2種類があるんだけど、私は当然のように無料版。
Saul Williams って政治色の濃いラッパーっていう位しか知らないので、何故彼がトレント君に制作を依頼したのか分からないんだけど、トレント君に関していえば、音楽性やメッセージ性に共感してというのは当然あるんだろうけど、一方で今後のトレント君の音源発表の仕方の一つの試金石であるのは間違いないでしょう。
トレント君が Nine Inch Nails 以外のアーティストの音楽製作に深く関与するのってマリマンの『Antichrist Superstar』以来らしいんだけど、今作もあの作品同様、かなりトレント君の色が濃い。っていうかはっきりいって Nine Inch Nails の新作として聴いても全く問題ない。
1曲目の “Black History Month” こそラップを披露しているものの、次の “Convict Colony” のドラムが鳴り響いてからは最近の Nine Inch Nails に近いインダストリアル・ロックが中心で、 Saul Williams の歌い方もかなりトレント君に近い。しかし Saul Williams がトレント君と決定的に違うのは声から感じられる肉体性で、見た目が筋骨隆々になったところで基本根暗な逆切れ王子なトレント君よりも、生命力張る声の Saul Williams の方が、最近のトレント君が志向するマッチョなインダストリアル・ロックには合ってる気がする。それにいくらトレント君の色が濃いとはいっても、Saul Williams に合わせていつもよりドラムを前面に出していて、これも作品の躍動感を強めていて良い。U2 の “Sunday Bloody Sunday” をカヴァーしているくらいだから今作も政治色が濃いのかもしれないけど、攻撃的ではあっても重苦しくはないので、あまりそのことは気にする必要はないし、その “Sunday Bloody Sunday” のカヴァーも、こんな大味なアレンジにしたら原曲のメッセージが台無しなのではないかと思いつつも、音自体はかなりかっこいい。
個人的には『With Teeth』や『Year Zero』よりも、よっぽど良いアルバムではないかと。