「現在のロックというのモノは、老いというものに直面している未曾有の時代」といういうのは確かミュージック・マガジンに書いてあったんだと思うけど、ロックに限らず成熟の形を示すというのはなかなかに難しく、ストリートミュージックであるヒップ・ホップ、さらに基本的に若者の音楽になっている日本のヒップ・ホップなどはなおさら困難に思える。
THA BLUE HERB の『LIFE STORY』(関連記事)という作品は、そういった中での試行錯誤の1つだったんだろうけど、それが成功しているとはいい難く、ならば日本で成熟の形を示しているラッパーを考えた場合、私の頭に浮かぶのは ECD と D.L でしょうか。
中でも D.L のこのアルバムは、発売から1年経った今でも思い出したように聴いている。
その理由として、最近の打ち込みのモノからは感じられない、ぶっといグルーヴを持ったファンク・トラックの素晴らしさというものも大きいんだけど、やはり1番魅力的なのは、良い意味で無理がないというところでしょうか。
BUDDHA BRAND の頃を思わせる ILL な曲があったかと思うと、歳相応というか、ぶっちゃけオヤジの小言みたいな曲もあったりして、しかしそれらが全く違和感なく並んでいて、それはやはり変に力むことなく、全ての言葉を同じ目線で発しているからでしょう。それゆえの余裕と力強さを同時に感じさせるこのスタイルであれば、この先10年、20年と続けていけるだろうし、言葉が無くともトラックで自身を表現できる彼が、案外現在のヒップ・ホップのアーティストの中でも、一番長く活動してくれそうな気がするのは私だけでしょうか。