Nine Inch Nails こと Trent Reznor が、『Year Zero』を発表したのが2007年の春。そしてその年の秋に Saul Williams のアルバムをプロデュースがあり、今年の頭にはインストの2枚組み大作『Ghosts I-IV』を発表。
昔の寡作作家の代表だったみたいな頃を思えば、これだけで十分驚きなんだけど、さらに先月 “Discipline” という曲をサイト上にアップして、その際書かれていた5月5日にサイトのほうに行ってみれば、『The Slip』というアルバムがフリー・ダウンロードで発表されているというんだから、じゃぁ今までの寡作ぶりは誰のせいなのか、と勘繰りしてみたくもなりますが、現在の作品を自由に発表できる環境というのが、 Trent Reznor の創作意欲にいい影響を及ぼしているのは間違いないんでしょう。
そしてそのように思えるのは、今作がそれだけ充実した内容だからで、『The Downward Spiral』の影を追い求める人に歓迎されそうな高速のドラムとノイズが乱れ飛ぶ “Letting You” や、ここ最近の路線のバンド感の強いインダストリアル・ロック、そして終盤の『Ghosts I-IV』を思わせる静的なエレクトロニカなど、スタイル的には今までの統括的な印象を与えるものながら、そのどれもが非常にすっきりとした音作りがなされていて、その結果浮かび上がっているのは Trent Reznor のメロディ・メーカーとしての才能。というのも『With Teeth』や『Year Zero』の頃のゴテゴテとした音作りに比べると、どの曲もメロディが直接耳に飛び込んできて、中でもあまり抑揚のないメロディを、しかしいつになく軽やかに歌う “Echoplex” は、 “The Perfect Drug” 以来の最高のポップ・ソング。
90年代の、危なく刺激的だった Trent Reznor というのは、おそらくもう戻ってこないでしょう。しかしこのままいけば、また違った方向性で、 Trent Reznor が実りの季節を迎えるのではないか、そう思わせるには十分なアルバムです。
これ、期待してなかったんだけど、けっこう良かったね。最近のなかでは一番好きかもしれない。
>もりたさん
私も最近のでは一番好きだねぇ。
この勢いで『The Fragile』、は無理だとしても、『The Downward Spiral』くらいの傑作を出してくれるといいんだけど。