Alan Abrahams といえば、ミニマルなエレクトロニクスに、自身のルーツであるアフリカン・パーカッションを融合させた作風で知られていますが、もう一方で、南アフリカのケープタウン出身である彼は、タウンシップと呼ばれる音楽で(少し調べたけど、どんな音楽か分かりません)、政治色の濃いアルバムなども作った事があるらしいのだけれど、彼が Portable 名義で発表したものに、政治色が感じられる事はほとんどありませんでした。
しかし、フロアに特化した Bodycode 名義での作品を経て、 Portable 名義では4枚目になるこの『POWER OF TEN』では、明確な変化が感じられる。
彼の今までの作品は、彼自身によるパーカッションを除けば、無機質な印象のものが多かったけど、今作ではいつになくギター等の生楽器を導入して、悲しみを湛えた曲が非常に多い。さらに、彼独特のパーカッションの効果で、浮遊感と呼びたくなるような揺らめく感じが強かったリズムは、沈み込むようなベースが印象的で、いつになく重いものになっている。それは、キックを前面に出して高揚感を煽っていたBodycode とも違い、また、単に暗いだけの抽象的な音楽になったわけでもなく、悲しみの中でも踊る事、つまり行動する事を強く希求する力強いものになっている。
それは、直接的な政治的メッセージが感じられるものではないけれど、闘争の音楽と呼びたくなるような強さを持っていて、私が以前『FLICKER EP』の記事で書いた、「彼の楽曲でこんなに感情に訴えかけてくるのは初めてじゃないでしょうか。これが安易な分かりやすさに流れなければ、次のアルバムは楽しみですね。
」、という言葉が現実となった素晴らしいアルバム。間違いなく最高傑作です。